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間室道子さんおすすめ『Amy’s Kitchen 山田詠美文学のレシピ』
美容手帖のHABA CULTURE CLUB内で連載中の「間室道子さんおすすめ 今月の1冊」。ここでは、美容手帖内で紹介し切れなかった内容を、さらに掘り下げてじっくり語っていただきます。
『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』山田 詠美・文/今井 真実・料理(左右社)
山田詠美さんの作品に出てくる一皿のレシピ集でありながら、本書には「料理本」を超えた魅力があります。ページを開くと、右に作品名と発表年とさまざまなシチュエーションに置かれた書籍の写真。左側には引用文。次のページにはメニュー名とつくりかたと完成ビジュアル。そんな一般的な構成をとりながら、本のある場所の粋、ユニークな料理名、完成した鴨のローストや稲荷寿司のたたずまいなどに、まちがいなく「山田詠美の文学」が立ち上がっているのです。
さらに、巻末のエッセイ。直木賞受賞後しばらくして、詠美さんの結婚生活はうまくいかなくなる。そんななか、夫のいない家でうつうつとしている彼女に男友達が、直木賞の賞金を全額つぎ込みホテル暮らしをするよう言い放ちます。彼が勧めたのはTホテル。誰もが名を知る老舗にひとりチェックインし、ゴージャスな部屋に入った詠美さんは、これがほんとうの孤独だ、と気づくのです。自宅のうつうつではなく、作家に前を向かせるためのひとりの時間…。
今もそうですが、Tホテルの名物のひとつはマーガリン。某メーカーの「おいしい顔ってどんな顔?」というCMソングを懐かしむ方も多いでしょう。傷心の時、ふと子供時代を思い出すって、あるものです。ホテル滞在中、朝食のたびに特製のマーガリンと焼きたてのパンを堪能し、私は「おいしい顔」に変わっていった、と詠美さんは綴っています。人を芯から励ますのは、大人になって手にした成功や栄誉ではなく、幼い頃の単純な幸せ――それは、誰かに愛された記憶。
『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』に「一人でつくり、一人で食べた」というものは出てきません。必ず誰かが誰かのためにつくっている。レストランで出されるものだったとしても、誰かとともに食す。巻末エッセイの後半、詠美さんは本書で料理を担当した今井真実さんの家に招かれ、レシピ化された品々をじっさいに口にして驚きと喜びをあふれさせます。そのとき同行した知人女性の一言が、詠美さん、そして読者の胸を打つのです。男女の恋愛のような駆け引きなしの、無条件に注がれた過去のあたたかさ。
ラストには詠美さんと今井さんのツーショット。まさに「おいしい顔」です。
さらに、巻末のエッセイ。直木賞受賞後しばらくして、詠美さんの結婚生活はうまくいかなくなる。そんななか、夫のいない家でうつうつとしている彼女に男友達が、直木賞の賞金を全額つぎ込みホテル暮らしをするよう言い放ちます。彼が勧めたのはTホテル。誰もが名を知る老舗にひとりチェックインし、ゴージャスな部屋に入った詠美さんは、これがほんとうの孤独だ、と気づくのです。自宅のうつうつではなく、作家に前を向かせるためのひとりの時間…。
今もそうですが、Tホテルの名物のひとつはマーガリン。某メーカーの「おいしい顔ってどんな顔?」というCMソングを懐かしむ方も多いでしょう。傷心の時、ふと子供時代を思い出すって、あるものです。ホテル滞在中、朝食のたびに特製のマーガリンと焼きたてのパンを堪能し、私は「おいしい顔」に変わっていった、と詠美さんは綴っています。人を芯から励ますのは、大人になって手にした成功や栄誉ではなく、幼い頃の単純な幸せ――それは、誰かに愛された記憶。
『Amy's Kitchen 山田詠美文学のレシピ』に「一人でつくり、一人で食べた」というものは出てきません。必ず誰かが誰かのためにつくっている。レストランで出されるものだったとしても、誰かとともに食す。巻末エッセイの後半、詠美さんは本書で料理を担当した今井真実さんの家に招かれ、レシピ化された品々をじっさいに口にして驚きと喜びをあふれさせます。そのとき同行した知人女性の一言が、詠美さん、そして読者の胸を打つのです。男女の恋愛のような駆け引きなしの、無条件に注がれた過去のあたたかさ。
ラストには詠美さんと今井さんのツーショット。まさに「おいしい顔」です。
