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間室道子さんおすすめ『作家とおやつ』

美容手帖のHABA CULTURE CLUB内で連載中の「間室道子さんおすすめ 今月の1冊」。ここでは、美容手帖内で紹介し切れなかった内容を、さらに掘り下げてじっくり語っていただきます。

『作家とおやつ』平凡社編集部 ・編(平凡社)

作家たちの素顔が見えるこのシリーズ、今回のテーマは「おやつ」です。突発的チョコレートむさぼり食い衝動を描いた村上春樹さん、会社や職場によくある、“おひとつどうぞ”、のおやつコーナーにあこがれる角田光代さん、「幼年時、はじめて到着の長崎カステーラをたべたときには、世の中にこんなうまいものがあるかしらと思った」と胸の内を吐露する江戸川乱歩、菓子パンの絵が添えられた正岡子規の日記、鎌倉にはいい菓子がない、と嘆き、上野のお店に図解説明入りの手紙を書いて自分の希望するお菓子を製作し送ってくれるよう頼んだ芥川龍之介など、ページをめくるたび、ほほえましくなります。
 
おすすめは、文豪・谷崎潤一郎の一編。「あの色はやはり瞑想的」「玉のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光を吸い取って夢みる如きほの明るさを啣(ふく)んでいる感じ」と大作家ならではの形容が続き、ここだけ読むとみなさま、お宝級の布か陶器の話ではないかとお思いでしょう。しかしこれ、あるお菓子についての記述なのです。
 
このあと「あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない」「クリームなどはあれに比べると何と云う浅はかさ」と続く偏愛ぶりに、思わず吹き出す読者は多いはず。しかし文豪は手を緩めず、「人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむとき、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で解けるのを感じ」と妖艶な展開になり、ラストは「常に陰翳を基調とし、闇と云うものと切っても切れない関係にある」と日本文化の真髄に迫っています。さすがの表現力に圧倒されつつ、しかしこれ、繰り返しますがお菓子の話なのです。さあ、谷崎が何について語っていたか、おわかりでしょうか!
 
表紙の写真もチャーミング。たすき姿の大作家・宇野千代先生が台所で指をナメています!ふつうなら「あら、お下品ね」となるところですが、写真の下の方に注目。宇野先生が作っているのはおだんごなのです。撮影が入っていることはご承知で、それでもなお、甘いきなこのついた指をぺろり。どんな高名な書き手もおやつを前にすると子供のようになるんだなあ、と感動…。いとしき無防備さ満載の1冊です。
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