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間室道子さんおすすめ『夜に猫が身をひそめるところ ミルリトン探偵局』
美容手帖のHABA CULTURE CLUB内で連載中の「間室道子さんおすすめ 今月の1冊」。ここでは、美容手帖内で紹介し切れなかった内容を、さらに掘り下げてじっくり語っていただきます。
『夜に猫が身をひそめるところ ミルリトン探偵局』吉田音 著/吉田篤弘 絵(中央公論新社)
本書は吉田篤弘さんが架空の娘・音(おん)ちゃんになりすまして書いた愉快な連作集です。
13歳の音ちゃんは、敬愛する学者兼探偵の円田(つぶらだ)さんと、黒猫シンクの「おみやげ」についてあれこれ話しています。円田家に居ついているこの猫は、夜、外に出たがる。そして帰ってきたとき、何かを口にくわえてきたり体にくっつけてきたりするのです。たとえば、16日間かけてひとつずつ運ばれて来た青いボタン16個、赤く錆びて「く」の字に折れ曲がった釘、昭和30年代の映画のちらし、白い粉など。これらはどこから来たのか、つまり、夜に猫が身をひそめるところはどこなのか、と2人は考えます。
「この世の外に、猫だけが行ける場所があるのです」というファンタジー的な空想ではなく、きちんと「推理」していくのが読みどころ。なんでもありにせず、日常から出ないほうが広がる思考って、あるものです。物語の幕間には「じつはこの品々は…」という章が差し挟まれており、「久助(きゅうすけ)」と題された一編がおすすめ。
製造過程で割れたり欠けたりした焼き菓子を指す「久助」。今も昔も製造所の裏手や店先で袋に詰められ、安く売り出されているのを見かけますが、この久助を東京でいちばん発生させてしまうのが、五十嵐さんの小さな菓子工場です。商売ももう40年。5年前に亡くなった奥さんの思い出や、もうここをたたむべきではないかという娘夫婦の声、揺れる五十嵐さんの心。そんな時、町内の掲示板に「水中映画の夕べ」という催しが…。
古い倉庫から見つかったたくさんの洋画のフィルムは傷みがひどく、でも奥に位置するラストシーンだけ無事、というものが何本かあった。ではそこだけつなぎ合わせて上映したらどうだろう。しかもお祭りの夜、川面に投影して――。町の若者たちの情熱が、歳を重ねた菓子職人まで届きます。夜、彼が目にした「川に映画が溶け出す」という幻の美しさに胸を震わせる読者も多いでしょう。
なにかの寄せ集めが思いもよらないつながり方をし、ささやかだけど豊かなものが立ち上がる。そんな展開は、お菓子の久助、そして音ちゃんたちの推理をほうふつとさせます。
あらゆる世代におすすめの1冊です。
13歳の音ちゃんは、敬愛する学者兼探偵の円田(つぶらだ)さんと、黒猫シンクの「おみやげ」についてあれこれ話しています。円田家に居ついているこの猫は、夜、外に出たがる。そして帰ってきたとき、何かを口にくわえてきたり体にくっつけてきたりするのです。たとえば、16日間かけてひとつずつ運ばれて来た青いボタン16個、赤く錆びて「く」の字に折れ曲がった釘、昭和30年代の映画のちらし、白い粉など。これらはどこから来たのか、つまり、夜に猫が身をひそめるところはどこなのか、と2人は考えます。
「この世の外に、猫だけが行ける場所があるのです」というファンタジー的な空想ではなく、きちんと「推理」していくのが読みどころ。なんでもありにせず、日常から出ないほうが広がる思考って、あるものです。物語の幕間には「じつはこの品々は…」という章が差し挟まれており、「久助(きゅうすけ)」と題された一編がおすすめ。
製造過程で割れたり欠けたりした焼き菓子を指す「久助」。今も昔も製造所の裏手や店先で袋に詰められ、安く売り出されているのを見かけますが、この久助を東京でいちばん発生させてしまうのが、五十嵐さんの小さな菓子工場です。商売ももう40年。5年前に亡くなった奥さんの思い出や、もうここをたたむべきではないかという娘夫婦の声、揺れる五十嵐さんの心。そんな時、町内の掲示板に「水中映画の夕べ」という催しが…。
古い倉庫から見つかったたくさんの洋画のフィルムは傷みがひどく、でも奥に位置するラストシーンだけ無事、というものが何本かあった。ではそこだけつなぎ合わせて上映したらどうだろう。しかもお祭りの夜、川面に投影して――。町の若者たちの情熱が、歳を重ねた菓子職人まで届きます。夜、彼が目にした「川に映画が溶け出す」という幻の美しさに胸を震わせる読者も多いでしょう。
なにかの寄せ集めが思いもよらないつながり方をし、ささやかだけど豊かなものが立ち上がる。そんな展開は、お菓子の久助、そして音ちゃんたちの推理をほうふつとさせます。
あらゆる世代におすすめの1冊です。
