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間室道子さんおすすめ『カフェーの帰り道』
美容手帖のHABA CULTURE CLUB内で連載中の「間室道子さんおすすめ 今月の1冊」。ここでは、美容手帖内で紹介し切れなかった内容を、さらに掘り下げてじっくり語っていただきます。
『カフェーの帰り道』嶋津 輝・著 (東京創元社)
大正から昭和にかけ、わが国で流行したカフェー文化。現代のカフェとは違うそこには、文士や芸術家たちが集う激論の場あり、今で言うクラブのホステスさんのような美しい女性を揃えた華やかな店あり。そんな中、本書の舞台は上野のはずれにある「カフェー西行」。アカデミックな雰囲気もお色気もなく、「食堂兼喫茶」の役割を続けている地味なお店です。でもドアをあければ、ユニークな女給さんたちが。
学歴を鼻にかけずにはいられない作家志望のセイ、当時一世を風靡した絵の女に似ているタイ子など興味深い者たちが登場する全五話で、私のおすすめは「嘘つき美登利」。
美登利は日常的なホラ吹き娘です。悪意はなく、高等女学校出をひけらかすセイに対するちょっとした反撃、あるいは年下の嘉代を感心させたい気持ちから出る、「いとこが今話題の上野松坂屋の“昇降機ガール”になったのよ」「足の悪い恋人のために私は女給をしているの」。ほどよくドラマチックでしつこく追及されない程度のつくり話が彼女のお得意でした。
しかし、ある日うわ手が登場します。昔銀座で見たのがこういう文面だったから、と店主兼コックの菊田が出した「女給募集 十九歳」という貼り紙を「拝見しました」とやって来たのはよく肥えた中年女性。名前は妹小路園子、住所はお屋敷町の本郷田町、年齢は「十九歳でございます」。若い子を雇っても、一週間も経たずに辞めたりよそに移られたりで「カフェー西行」はその時人手不足。新しい人が決まってよかった、と呑気な菊田に美登利は納得いきません。自分の嘘は浅い。でもあの人のはどうも底知れない…。
意外すぎる新人中年女給・園子が店にも客にもなじんで二か月目の定休日、美登利は町でこの女を見かけます。尾行していった先で彼女はある目撃をし、そのせいか熱を出して寝込んでしまいます。お店に復帰してまもなく、今度は園子が仕事中に倒れ、家まで送っていくことになった美登利は、彼女がどういう人なのか、さらに驚くべきことを知るのです。
時代を彩る文化の奥にはいつだって女たちの等身大のつらさや希望、たくましさがあった――。生活に根ざした心の温度が沁みてくる、第174回直木賞受賞作。
学歴を鼻にかけずにはいられない作家志望のセイ、当時一世を風靡した絵の女に似ているタイ子など興味深い者たちが登場する全五話で、私のおすすめは「嘘つき美登利」。
美登利は日常的なホラ吹き娘です。悪意はなく、高等女学校出をひけらかすセイに対するちょっとした反撃、あるいは年下の嘉代を感心させたい気持ちから出る、「いとこが今話題の上野松坂屋の“昇降機ガール”になったのよ」「足の悪い恋人のために私は女給をしているの」。ほどよくドラマチックでしつこく追及されない程度のつくり話が彼女のお得意でした。
しかし、ある日うわ手が登場します。昔銀座で見たのがこういう文面だったから、と店主兼コックの菊田が出した「女給募集 十九歳」という貼り紙を「拝見しました」とやって来たのはよく肥えた中年女性。名前は妹小路園子、住所はお屋敷町の本郷田町、年齢は「十九歳でございます」。若い子を雇っても、一週間も経たずに辞めたりよそに移られたりで「カフェー西行」はその時人手不足。新しい人が決まってよかった、と呑気な菊田に美登利は納得いきません。自分の嘘は浅い。でもあの人のはどうも底知れない…。
意外すぎる新人中年女給・園子が店にも客にもなじんで二か月目の定休日、美登利は町でこの女を見かけます。尾行していった先で彼女はある目撃をし、そのせいか熱を出して寝込んでしまいます。お店に復帰してまもなく、今度は園子が仕事中に倒れ、家まで送っていくことになった美登利は、彼女がどういう人なのか、さらに驚くべきことを知るのです。
時代を彩る文化の奥にはいつだって女たちの等身大のつらさや希望、たくましさがあった――。生活に根ざした心の温度が沁みてくる、第174回直木賞受賞作。




