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間室道子さんおすすめ『最後の晩餐』

美容手帖のHABA CULTURE CLUB内で連載中の「間室道子さんおすすめ 今月の1冊」。ここでは、美容手帖内で紹介し切れなかった内容を、さらに掘り下げてじっくり語っていただきます。

『最後の晩餐』 江國 香織・金原 ひとみ・角田 光代・寺地 はるな・原田 ひ香・藤野 千夜・井上 荒野・著 (角川春樹事務所)

タイトルどおり、人生最後の食をテーマにした人気作家による競作集。居酒屋の雑談あるあるみたいなたわいもない題材を、彼女たち七人がどのように大人の小説に仕上げているかに注目です。
 
さまざまな作品の中、ユーモラスなドタバタとじんわり心に沁み入る味を合わせ持つのは、角田光代さんの「最後の鰻」。
 
年末のある日、船木家の主、一正は病院の四人部屋から個室に移されます。御年九十二歳。もう意識はほとんどなく、周囲にもそれなりの覚悟はできており、クリスマスの夜に病室に集まった彼の妻、長男一家、長女一家、次女一家、そしてかけつけた一正の友人ひとりを足し、総勢十一名に悲愴感はあまりありません。
 
「瞬間湯沸かし器だった」「食事にはうるさかった」と場所を配慮し小声ながらもみんなでにぎやかに一正とのエピソードを語る中、妻・幾子が「最後のごはん、このままだとお粥になってしまう」とつぶやきます。昔から鰻が大好物。脂っこいものは死ぬ間際には無理だよ、と家族の雑談で言われても、断固鰻、と言い通していた一正なのに、味のしない病人食のお粥がラストの食に・・・。でももう夜遅い。鰻屋なんて閉まっているだろう。どうしよう。
 
その後あれこれあって、病室に鰻が持ち込まれ甘い匂いが充満する中、それぞれが「人生でおいしかったもの」を頭に浮かべます。
 
読みどころは、年若い孫を除けばそれなりに人生経験を重ねた大人たち。どこどこのフレンチとか料亭の味が出てもいいのに、全員が、この家族での食事を思うのです。長年の友人も一正との高校時代のエピソードを甦らせます。
 
さらなる読みどころは、決して楽しい思い出ばかりではないこと。あの日意味もなく不機嫌だった自分、誕生日に母がつくる定番メニューをじつは恥ずかしいと思っていたこと。でもそれが記憶のなかで、かけがえのない食事となっている。
 
「おいしい」とは、何を、ではなく、誰と食べたかなのでしょう。ラストシーンの若い孫娘の独白が光ります。
 
ほかに、江國香織さんが描く、コインランドリーに居合わせた若い夫婦の会話から自分の人生の締めの食を考える六十代の女性あり、井上荒野さんの、「最後の晩餐」という名のレストランを探す家族の物語あり。皆様も、自分なら何を食べようか、と思いを馳せることでしょう。
 
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